日本では漫画『エリア88』などで知られるようになったF-8クルセイダー戦闘機は、主翼が上側に開く可変取り付け角機構を採用するなど、他の戦闘機には見られない特徴を持っています。初飛行から退役までを追いました。

空軍ジェット戦闘機より優秀な海軍戦闘機

1955年3月25日アメリカチャンスヴォート社が開発したF-8クルセイダー戦闘機が初飛行した日です。

この機体は人気漫画『エリア88』において、主人公「風間 真」の愛機として活躍したことでも知られています。とくに同機の特徴ともいえる、主翼全体の角度を飛行中に変えられる可変取り付け角機構にフォーカスした描写や、障害物を避けるために主翼を折りたたんだ状態で飛行するシーン(現実には操作ミスで折りたたんだ状態で離陸してしまった事故例がある)などが有名で、この戦闘機の存在を日本で広く知らしめた作品といえるでしょう。

F-8が開発された1950年代はジェット戦闘機の黎明期であり、この頃に開発された機体はどれもが技術的な試行錯誤を繰り返している状況でした。とくに艦載機の場合は、空母に着艦するという絶対条件によって、降着装置や機体構造の強化、安全な着艦を実現するための低速性能の確保といった制約が多く、その開発は非常に難航していました。

ジェットエンジンの利点ともいえる高速性を生かした超音速機としては、アメリカ海軍に先んじて同空軍がF-100「スーパーセイバー」を1954年から配備し始めていますが、空母上で運用する艦載機には、いまだその能力を持つ機体は存在しませんでした。

そんな状況の中で開発されたF-8(当初の名所はF8U)は、アメリカ海軍にとっては待望の超音速飛行可能な艦載戦闘機だったのです。最高速度は、前出のF-100「スーパーセイバー」(最高速マッハ1.3)を上回るマッハ1.7で飛行することが可能で、なおかつ空中戦で勝つための戦闘機としての良好な運動性能も兼ね備えていました。

これは、1950年から始まった朝鮮戦争において、戦場で対峙したソ連製戦闘機MiG-15に対して当時のアメリカ海軍の空母艦載機が性能的に劣っていたことへの反省ともいえるようです。ゆえに、F-8開発計画に対する海軍の設計提案要求には、高いマニューリティー(機動性)が当初から盛り込まれていました。

「最後のガンファイター」なるあだ名は幻想?

F-8クルセイダー」は1957年から配備が始まり、アメリカ海軍だけでなくアメリカ海兵隊でも使われ、その総生産数は1259機にもなります。現役時代の実戦参加としてはベトナム戦争での重用が有名でしょう。この戦争の期間中にF-8が空中戦で撃墜した敵機の数は19機(内1機は海軍未確認のため資料によっては18機と記載)にもなります。

ベトナム戦争において、アメリカ海軍と空軍が用いた最新鋭の戦闘機はマクダネルダグラス社製F-4ファントムII」でしたが、初期モデル空対空ミサイルに対空戦闘能力を依存しており、固定武装として機関砲を装備していませんでした。一方、F-8は固定武装として20mm機関砲Mk.12を4門装備するうえ、戦闘機として良好な機動性もあることから、これら撃墜記録と合わせて「最後のガンファイター」というあだ名まで生まれています。

ただ、このあだ名も多少脚色された側面があるようです。F-8が装備するMk.12機関砲は故障が多く、1門あたりの20mm弾の携行弾数は144発であるものの、弾詰まりの恐れからあえて120発に減らして使われていたとか。また、目標に狙いを付けるための照準器も3G以上の機動時には精度が落ちるという問題を含んでいました。

F-8ベトナム戦争で、ソ連製のMiG-17戦闘機を撃墜したのは1966年6月12日にぼっ発した戦いでのことでしたが、この時は4機のF-8が戦闘に参加して、うち3機の機関砲が戦闘中に故障した結果、最終的に「サイドワインダーミサイルを使って敵機を撃墜(もっともこちらも8発発射して命中したのは1発だけ)しています。

ベトナム戦争におけるアメリカ軍の空戦記録をひも解いても、F-8が機銃だけで撃墜したのは1件しかありません。

キューバ危機を描いた映画にも出演

ベトナム戦争ほど注目されていませんが、F-8クルセイダー」が実戦参加した事例で歴史の教科書に載っている有名な出来事には、1962年キューバミサイル危機も挙げられます。当時のソビエト連邦アメリカ全土を射程に収める核ミサイル基地をキューバに建設していることが判明し、それが原因でアメリカソビエト連邦が核戦争直前の緊張状態になった歴史的な事件です。

このとき、キューバに建造中のミサイル基地の状況を確認するための偵察飛行で、F-8偵察機型であるRF-8Aが、同国上空を低空写真撮影任務で飛行しています。

ブルームーン」作戦と呼ばれるこの偵察飛行は、1962年10月23日に第1回が行われています。このとき、6機のRF-8Aがフロリダ南端のキーウェスト基地から離陸し、3組の編隊に分かれてキューバ各地の軍事施設を偵察しました。

その様子は2000年に公開されたキューバ危機を題材にした映画「13デイズ」でも描かれていますが、劇中に登場した飛行隊の隊長であるエッカー中佐は実在の人物で、実際に前述の最初の偵察飛行にも参加しています。

また、劇中では任務後に飛行服のままフロリダから遠く離れたワシントンDCの国防総省に表れるシーンがありましたが、これも実話由来だそう。任務後に直接、状況説明をするよう軍上層部から求められたエッカー中佐が、キーウェスト基地に戻った後に自ら再びRF-8Aを操縦して国防総省に向かった(首都近郊のアンドリューズ空軍基地まで飛行し、そこからヘリで移動)ことに由来しています。

実際に任務に参加した兵士が、そのまま軍上層部に直接説明に行くという事例は珍しく、それだけ当時のアメリカ軍にとってはキューバ危機が緊迫状態にあったということを示しているといえるでしょう。

フィリピン空軍で野晒しの機体も有効活用

F-8クルセイダー」のアメリカ軍での運用は1976年まで続けられ、その偵察型であるRF-8はさらに長く1987年まで使われました。

海外の運用国としては、フランス海軍がクレマンソー級空母用の艦載機として小改修を加えたF-8E(FN)型を使っていましたが、2000年までに空母「クレマンソー」と「フォッシュ」が相次いで退役したことで運用を終えています。

フィリピン空軍も1977年からアメリカで保管されていた35機のF-8Hを中古で購入して運用していましたが、パーツ不足と機体疲労によって1880年代後半にはその大半が飛行不能となり、1991年の同国のピナツボ山大噴火の影響で残りの機体も被災したため、同年に完全退役しています。

ただ、フィリピン空軍のF-8については、のちに面白いエピソードを持っています。前述のように同空軍で飛行不能となったF-8はそのまま基地内で野晒し放置されていたため、それを先ほど紹介した映画「13デイズ」の制作陣が目を付け、フィリピン政府から撮影のために借り受けて再利用しています。

そのため、劇中でキーウェスト基地となっているのは、実はフィリピンクラーク空軍基地だったとか。

戦闘機には、それぞれ歴史があり、いろいろな形で小ネタを含んでいることが多々あります。F-8についても同様で、ここまで記したように開発経緯、実戦参加と運用で象徴的な出来事を数多く持っている機体でもあります。

加えて、エンタメ作品での露出もF-14「トムキャット」やF-4ファントムII」ほどではないものの、相応にあることから、F-8クルセイダー」が日本でも比較的知名度が高い機体となったのは、ある意味必然だったといえるのかもしれません。

カリフォルニア州サンディエゴのミッドウェイ博物館に展示されているF-8K(布留川 司撮影)。


(出典 news.nicovideo.jp)


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