「この間できたと思ったらもう潰れていた」そんな飲食店を見かけたことはないでしょうか。飲食店は参入のハードルが低いため、開業してから5年で半数以上、10年で9割のが潰れてしまうと言われています。公認会計士で税理士の石動龍氏が著書『会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる』(日本実業出版社)で解説していきます。

「月商〇百万円達成!」ってホントに儲かってる?

知ってますか? 商売で儲けるのって簡単じゃないんです。

例で考えてみましょう。田中さんラーメン屋を経営していて、毎月の売上はだいたい100万円。鈴木さんはライターをしていて、毎月の売上はだいたい30万円。

どちらが儲かっているでしょう?

正解は「わからない」でした。最初から少し意地悪なクイズすみません。

でも、せっかくだから考えてほしいのです。

「儲ける」ってそもそもどんなことをいうのでしょうか。

「儲ける」とは最終的にお金が手元に残っていることをいいます。Twitterなどを見ていると「月商〇百万円達成!」などと景気良さげなプロフィールの人を目にします。

そのたびに「利益はいくらなのかなぁ?」と思ってしまいます。

売上よりも大切なものは「利益」

売上はもちろん大事ではありますが、それ以上に重要なのは「利益=儲け」です。

なぜか? 利益がない状態、つまり「赤字」はお金が手元から減ることを意味するからです。

企業が倒産したときのニュースで「債務超過」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。これは、赤字が続いて借金がどんどん増えてしまい、持っている現金や土地や建物などの価値を超えてしまったことを意味します。

当然ですが、銀行は人や会社を選んでお金を貸します。『半沢直樹』など銀行モノのドラマでは、経営がピンチになった社長が「なんとか貸してください!」と銀行員に頼み込んでいるシーンがあります。

銀行も貸したお金が返ってこないと困りますから、「返せる見込みがない」と判断した場合は、融資を断ります。

倒産のニュースになるのは、そのようなやり取りがあったうえで、どうしようもなくなった状態です。実際、私が公認会計士になる前に勤めていた会社も、融資を断られて最終的に倒産しました。

売上だけでは「利益」が見えてこないワケ

最初のクイズに戻りましょう。ラーメン屋の田中さんライターの鈴木さんは、どっちが儲かっているかわかりません。なぜでしょうか?

ラーメン屋は材料仕入が必要です。アルバイトを雇っているかもしれません。水道代やガス代もかかります。売上が100万円あっても、これらを差し引くと手元に残る金額はわずかでしょう。

一方、ライターの原価ははるかに低く抑えられます。文章を書いて取引先に納入するのが仕事ですから、パソコン1台あれば自宅でも作業できます。ラーメン屋などの店舗を持つ商売と比べると、コストはかかりません。

つまり、商売にかかっている原価や経費を調べないと、どっちが儲かっているかはわからないのです。

自己破産をすると「ブラックリスト」に入れられる

ちょっと怖い話をしましょう。私は公認会計士、税理士のほかに、行政書士と司法書士の資格も持っています。司法書士の業務内容は、一般的にあまりなじみがないかもしれません。

司法書士の主な仕事は不動産登記で、売買や相続などに伴って土地や建物の名義を変更する手続きを代理しています。そのほかに、裁判所に提出する書類を作成したり、裁判所から選ばれて、身寄りのない人の成年後見人になったりしています。

裁判所で行う手続きの中に、自己破産があります。借りたお金を返せないといった場合に、再生を目指すために裁判所が介入して整理を行い、借金を法的になくす手続きです。

当然、デメリットもあります。自己破産をすると、いわゆる「ブラックリスト」に登録されます。そのため、当面の間、融資を受けたり、クレジットカードを作ったりすることはできなくなります。

たまに、「自己破産したい」という人から相談を受けることがあります。書類に記入するために、借金が増えた事情を聞くことになります。原因はギャンブル、事故による失職などさまざまですが、その中で多いパターンの1つが「商売の失敗」です。

開店1年で閉店…「返済期間」は7~10年

特に、飲食店は開業から5年で少なくとも半数以上、10年で9割がつぶれるといわれています。皆さんも、「この間近くにできた店がもう閉店していた」という経験はないでしょうか? 飲食店は参入のハードルが低いため、競争が激しく失敗も多いのです。

代表的な失敗例は、こんなケースです。サラリーマンをやめて、未経験から飲食店を新規開業。外装や内装はフルリフォーム、食器や備品もこだわり、開店資金は1500万円。自己資金は300万円、足りない1200万円は銀行から融資を受ける。思うように集客できず、1年で閉店。

この場合、受けた融資は工事代金などで支払っていますので、手元に残っていません。個人事業主として開店資金の融資を受けると、一般的に返済期間は7~10年ほどになり、分割して少しずつ返していきます。

ところが、短い期間で閉店してしまうと、それ以降に返すはずだった借金のほとんどが残ってしまいます。サラリーマンなどの労働者に戻って返済を続ける方法もありますが、返済額が多くて生活が立ち行かなくなったときは、自己破産など、免責される方法を探すことになります。

思ったよりも「お客さんが来ないだけ」で閉店する

開業からわずかの期間で大変な状況になってしまう人は、そんなに大きな失敗をしたのでしょうか? 実は、そんなことはありません。

計画の甘さはあったのでしょうが、このケースでうまくいかなかったのは、思うようにお客さんが来なかった、というシンプルな事実だけです。

飲食店に限らず、集客はたくさんの要素が絡みます。天気が悪い、暑い、寒い、新型コロナウイルス感染者が増えた、近くのイベントが急に中止になった――こんな理由で客足は前日からいきなり半分になったりします。ここで挙げた例は、ドラゴンラーメンでも実際にあったものばかりです。

それでも、来客がある場合に備えて準備はしなければなりません。せっかく来たのに品切れになっていると、よっぽどの人気店でなければ、お客さんは失望してもう来てくれないでしょう。

人気のラーメン屋は、行列を作るためにあえてスープ切れを演出することもあると耳にしますが、よっぽど商品力が強い場合でないと、かえって逆効果になります。

経験が浅いと、来客を予想することは難しいです。私も天候や曜日を基準に来客を予想しているものの、なかなか当たりません。理由なく来客が前日から半減したり、逆に増えたりすることに対応する毎日です。

来客が予想より少ないと、業種によっては在庫ロスが発生します。食材が腐った場合は捨てることになり、その分の仕入代金は丸々損になってしまいます。

「会計」を学んで自己破産をケア

このように、商売で儲けを出し続け、長く経営することは簡単ではありません。

ですが、しっかり勉強することで店をつぶしたり、自己破産したりする可能性を大きく減らすことができます。そのためのツールが「会計」です。

「会計」と聞くと、「数字は苦手!」と反射的に感じる人もいるかもしれません。

安心してください。会計は足し算引き算、かけ算、割り算ができれば、しっかり理解できるようになっています。これからわかりやすく説明していきますので、役に立つ会計について、一緒に勉強していきましょう。

石動 龍

石動総合会計法務事務所 代表

ドラゴンラーメン 店主

(※写真はイメージです/PIXTA)


(出典 news.nicovideo.jp)


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