代替テキスト
(写真:PIXTA)

「この5年で世界の平均気温が観測史上最も高くなる確率が98%」

世界気象機関(WMO)が5月17日にこう発表したように、今年も暑い夏になりそうだ。

猛暑が続くとなると、夜になっても気温が25度を下回らない熱帯夜も多くなる。

「世界的な気候変動で日本でも熱帯夜の日数が増えており、これまで無縁だった地域でも記録されるようになっています」

こう語るのは、熱帯夜によって死亡リスクが上昇することを明らかにした、筑波大学のキム・セッビョル・エステラ助教。

キム助教ら研究チームは、47都道府県における43年間(’73〜’15年)の約2千470万例の死亡例と熱帯夜のデータを解析。その結果、熱帯夜の後には、ほぼ全国的に死亡リスクが上昇していることが明らかになった。さらに、熱帯夜によるリスクの大きさは都道府県ごとに異なるという。

「熱帯夜でない日に比べて死亡リスクは、北海道で5.9倍、青森県で2.8倍、山形県で1.8倍、長野県で1.5倍に上がります。これらの地域は、一般的には寒いイメージのある地域で年間の熱帯夜の日数も少ないのですが……」(キム助教)

そもそも北国では寝苦しい夜はないかと思いきや、気象庁によると、北海道札幌市でも’19年に3日、’21年4日とここ数年は熱帯夜が増加しているという。

■初夏でも暑さへの油断は大敵!

しかしいったいなぜ、涼しい地域ほど熱帯夜の影響を受けてしまうのか? キム助教が解説する。

「暑さに慣れていないこと、体力が落ちている高齢者が多いことなどが影響していそうです。

さらに北海道や東北はエアコンの、普及率が低く、関東や西日本では90%以上なのに対して、北海道は40%程度、東北地方でも普及率は8割を切っています。

暑さに不慣れなうえ、エアコンがなければ、熱帯夜のダメージが直撃してしまうのです」

さらに、夏真っ盛りよりも初夏の熱帯夜のほうが、死亡リスクが高いという。近年は6月に熱帯夜が発生することも。この6〜7月は要注意の季節なのだ。

「初夏の死亡率の高さも、暑さに体が慣れていないことが影響しているのでしょう

また、本格的な夏ではないからと、無理をしてエアコンをつけなかったり、水分補給をしなかったりすることも。ちょっとした油断が命を落とすことにつながってしまうのです」(キム助教)

今回の研究報告で興味深いのは、熱帯夜と関連する死因があることを突き止めていることだ。

「熱帯夜と関係する死因では心血管疾患、虚血性心疾患、脳血管疾患、脳出血脳梗塞など血管トラブルによる病気が目立ちます。暑さによって心臓の機能低下が起きているのでしょう。

また、脳梗塞心筋梗塞などは血管が詰まって起こる病気も少なくありません。気温の上昇により汗をかくことで、血液が濃くなりドロドロに。血栓ができやすくなり、脳や心臓で詰まって発症してしまうのです」(キム助教)

とりわけ血管が狭くなる動脈硬化がある場合は、熱帯夜が「引き金」となって、突然死を招く可能性が高いという。

■持病のない人でも突然死のリスク

さらに、動脈硬化のような持病がない人でも、“熱ストレス”の影響に注意が必要だと指摘するのは、救急医療に約20年携わってきた「すぎおかクリニック」院長の杉岡充爾先生。

「血管は収縮と拡張を繰り返して全身にくまなく血液を送っています。ところが過剰なストレスがかかると血管は突然けいれんを起こして強く収縮。血流が止まり、脳梗塞心筋梗塞など、重篤な血管の病気を招きます。

熱帯夜の熱ストレスでは、血管自体に動脈硬化のような障害が起きていなくても、血管のけいれんが発生して血管を詰まらせてしまうことも。働き盛りの人でも突然死することがあるのです」

熱帯夜に限らず、人はストレスを感じると、血管へのダメージを最小限にとどめるため、副腎で作られる抗ストレスホルモン(コルチゾール)を分泌し、血管の緊張状態を和らげようとするという。

ストレスが多い生活を過ごしていると、副腎の機能が追いつかず疲弊してしまい、抗ストレスホルモンが作られにくくなります。  そんな状態で熱帯夜のような過度なストレスがかかると、血管がけいれんを起こしてしまうのです」(杉岡先生)

熱帯夜が予想されるときは、就寝までにストレスリセットしておく習慣が重要だという。

「日ごろからイライラしないような生活をすればいいのですが、生きていればストレスがたまるのは当たり前です。

夕方以降は、入浴やアロマテラピーなどリラックスできる時間を過ごして、自律神経のなかでも休息モードの副交感神経の働きを高めておくことで、抗ストレスホルモンが分泌されやすい状態を作っておきましょう。そうすれば、熱帯夜による血管へのストレスも軽減されるのです」(杉岡先生)

また、血管の病気以外にも、呼吸器疾患、肺炎、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、ぜんそく、腎臓病などによる死亡も熱帯夜と深く関係する。

「寝苦しさからくる睡眠の質の低下により、免疫力が下がっていることが考えられます。感染症にかかりやすくなったり、持病が悪化することで死亡率が上がるのです」(キム助教)

動脈硬化の心配がある人、持病がある人は、熱帯夜が寿命を縮めるリスクであることは心にとどめておくべきだ。

電気代の値上がりで、エアコンをつけるのを渋りたくなるところだが、熱帯夜には家計よりも、命を守る選択をしよう!



(出典 news.nicovideo.jp)


<このニュースへのネットの反応>